五四運動の残響
1919年の五四新文化運動で提起された「民主」と「科学」,「中国」と「世界」をめぐる課題と遺産は,その後の国民革命―中国革命―文化大革命―天安門事件へと続く革命の精神として貫かれた,未完のプロジェクトである.日本へのまなざしも織り込み,豊富なエピソードを交えて新たな視点から大胆に書き直される中国現代史.
■訳者からのメッセージ
歴史をみる面白さの一つは,人間が多様な歴史像をつくりだせるという可能性のなかにあると思います.1919年に中国で起こった五四運動についても,その意味は様々に議論されてきました.「五四」の残響は,まさに今日に至るまで,中国知識人の真剣な関心の対象だと言えます.それは,「五四」が現代中国にとって未完の課題を示唆するシンボルとなっているからだと思います.
この本は,中国の現代史を,五四運動における主題の変奏という一貫した視点で描き出...
1919年の五四新文化運動で提起された「民主」と「科学」,「中国」と「世界」をめぐる課題と遺産は,その後の国民革命―中国革命―文化大革命―天安門事件へと続く革命の精神として貫かれた,未完のプロジェクトである.日本へのまなざしも織り込み,豊富なエピソードを交えて新たな視点から大胆に書き直される中国現代史.
■訳者からのメッセージ
歴史をみる面白さの一つは,人間が多様な歴史像をつくりだせるという可能性のなかにあると思います.1919年に中国で起こった五四運動についても,その意味は様々に議論されてきました.「五四」の残響は,まさに今日に至るまで,中国知識人の真剣な関心の対象だと言えます.それは,「五四」が現代中国にとって未完の課題を示唆するシンボルとなっているからだと思います.
この本は,中国の現代史を,五四運動における主題の変奏という一貫した視点で描き出したものです.五四の残した遺産とは,広い視野から中国を世界に位置づけようとする観点,そして多元的な思考のなかで幸福をめざす自由だというのです.
本書が魅力的なのは,魯迅・丁玲や鄒韜奮といった個性的な人物に焦点をあてることで,20世紀中国の知識人の模索と希望と挫折について生き生きと描き出しながら,中国現代史をグローバルな視点のなかでとらえさせてくれるからでしょう.本書の臨場感あふれる叙述を通じて,曲折にみちた20世紀中国の歴史過程を追ってみることをお勧めします.
本書について私なりに考えたことは,別に「五四運動から読み解く現代中国」(『思想』1061号,2012年9月号)としてまとめましたので,あわせて読んでいただけますとうれしく思います.
ラナ・ミッター(Rana Mitter)
オックスフォード大学教授(現代中国の歴史と政治)
The Manchurian Myth: Nationalism, Resistance, and Collaboration in Modern China, University of California Press, 2000
Modern China: A Very Short Introduction, Oxford University Press, 2008
吉澤誠一郎(よしざわ せいいちろう)
東京大学大学院人文社会系研究科准教授
『天津の近代――清末都市における政治文化と社会統合』名古屋大学出版会,2002年
『愛国主義の創成――ナショナリズムから近代中国をみる』岩波書店,2003年
『清朝と近代世界 19世紀』【シリーズ 中国近現代史1】...
ラナ・ミッター(Rana Mitter)
オックスフォード大学教授(現代中国の歴史と政治)
The Manchurian Myth: Nationalism, Resistance, and Collaboration in Modern China, University of California Press, 2000
Modern China: A Very Short Introduction, Oxford University Press, 2008
吉澤誠一郎(よしざわ せいいちろう)
東京大学大学院人文社会系研究科准教授
『天津の近代――清末都市における政治文化と社会統合』名古屋大学出版会,2002年
『愛国主義の創成――ナショナリズムから近代中国をみる』岩波書店,2003年
『清朝と近代世界 19世紀』【シリーズ 中国近現代史1】岩波新書,2010年