漢新時代の地域統治と政権交替
中国では、広大な地域が一つの国家によって統治され、唯一の皇帝を戴く体制が古くからみられ、それは 多くの時代において理想視された。このような体制はいかにして形成されたのかという疑問は、中国古代史研究の根本的な問いの一つであるといってよい。中国古代史研究の課題の中心には、中央集権的広領域国家の形成があった。しかしながら、ある政権が広大な版図を領有するという現象それ自体は、軍事力や指導力にもとづく征服活動の成否の問題である可能性がある。一方、国家がその状態を保ち持続するか否かは、軍事力や指導力だけによるのではない。広領域の国家が維持され、国家像の一つとなるにいたる過程の解明もまた、重要な課題となる。本書では、それを両漢時代において、地域間の統合を実現した構造と、社会の政治的統合の様相から考察したい。
……本書第一部では、前漢後半期から後漢時代について、軍事...
中国では、広大な地域が一つの国家によって統治され、唯一の皇帝を戴く体制が古くからみられ、それは 多くの時代において理想視された。このような体制はいかにして形成されたのかという疑問は、中国古代史研究の根本的な問いの一つであるといってよい。中国古代史研究の課題の中心には、中央集権的広領域国家の形成があった。しかしながら、ある政権が広大な版図を領有するという現象それ自体は、軍事力や指導力にもとづく征服活動の成否の問題である可能性がある。一方、国家がその状態を保ち持続するか否かは、軍事力や指導力だけによるのではない。広領域の国家が維持され、国家像の一つとなるにいたる過程の解明もまた、重要な課題となる。本書では、それを両漢時代において、地域間の統合を実現した構造と、社会の政治的統合の様相から考察したい。
……本書第一部では、前漢後半期から後漢時代について、軍事負担と地域性の視点を中心に、地方統治にかかわる事象から、地域間の統合のあり方について検討をくわえる。
第二部では、政治的中枢の担い手の問題を、両漢交替期に限定して検討する。両漢交替期とは前漢王朝の末期から、王莽新王朝を経て後漢王朝成立期までをいう。漢は王莽によって簒奪され、光武帝劉秀によって再建された。王莽政権期から光武帝の再統一まで四〇年弱のうちに、地方割拠勢力もふくめれば、複数の政権の興亡がくりかえされた。これらの興亡における政権と成員の関係を考察する。