黒白の囮（新装版）-轻识

深夜の雨の中、名神高速で自動車事故が起き、運転中の商事会社・社長は即死した。その後、社長夫人が病死し、娘が自宅で絞殺される。ただ一人、アリバイのない社長秘書が逮捕されたが…。冤罪を嫌い“グズ茂”の異名を持つ検事・近松茂道が一歩一歩真犯人に迫るシリーズ第一長編。最初期の短編「殺人へのよろめき」「殺意の審判」を収録。

高木彬光本名誠一。大正９年青森市生まれ。青森中学より旧制一高を経て、京都大学薬学部に入学、ついで工学部冶金学科に転じ、昭和18年に卒業して中島飛行機会社へ入社、技師生活を送った。終戦により離職、窮乏の状況のなかで探偵小説を書くことを決意する。　原稿用紙が入手困難なため、藁半紙を用いて一気に書き上げたのが、処女作の『刺青殺人事件』である。易者からのアドバイスも容れて、江戸川乱歩に生原稿を送りやがてそれが折り紙付きで認められ、出版の運びとなった。

『刺青殺人事件』は胴なし死体という斬新な着想、日本家屋で密室を構成した趣向、意外な真相のどれをとっても、日本の本格ミステリーの名作。つづく『能面殺人事件』では探偵作家クラブ賞を受け、『呪縛の家』『わが一高時代の犯罪』『人形はなぜ殺される』などの力作を相次いで発表、日本ミステリー界の代表的作家となった。

乱歩...

乱歩の明智小五郎や横溝の金田一耕助と並ぶ天才型名探偵の神津恭介を誕生させたほか、私立探偵大前田英策、青年弁護士百谷泉一郎、検事霧島三郎、グズ茂と呼ばれる近松検事、アナリスト墨野朧人などの個性的な探偵を作り出した。

また歴史推理にも意欲を示し、『成吉思汗の秘密』『邪馬台国の秘密』『古代天皇の秘密』の記念碑的な作品を書いた。さらには経済ミステリーの『人蟻』『白昼の死角』、法廷推理の『破戒裁判』『誘拐』、新本格ものの『黒白の囮』『検事霧島三郎』『霧の罠』『帝国の死角』『大東京四谷怪談』など幅広い活動を続けた。