黒百合
「六甲山に小さな別荘があるんだ。下の街とは気温が八度も違うから涼しく過ごせるよ。きみと同い年のひとり息子がいるので、きっといい遊び相手になる。一彦という名前だ」父の古い友人である浅木さんに招かれた私は、別荘に到着した翌日、一彦とともに向かったヒョウタン池で「この池の精」と名乗る少女に出会う。夏休みの宿題、ハイキング、次第に育まれる淡い恋、そして死—一九五二年夏、六甲の避暑地でかけがえのない時間を過ごす少年たちを瑞々しい筆致で描き、文芸とミステリの融合を果たした傑作長編。
多島 斗志之(タジマ トシユキ)
1948年生まれ。早稲田大学卒。1985年の初長編『〈移情閣〉ゲーム』(別題『龍の議定書』)以来、国際謀略小説の秀作を次々に発表。次第に作風を変え、『不思議島』では本格推理、『海賊モア船長の遍歴』では時代冒険小説に挑むなど様々なジャンルの小説を発表、そのいずれもが練り上げられた作品で評価も高い。2003年の『離愁』以降は文芸作品の執筆が続いていたが、待望の新作である『黒百合』は作者が文芸とミステリを融合させ、その才人ぶりを遺憾なく発揮した傑作である。
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