中国仏教美術の展開: 唐代前期を中心に
――「安史の乱」によって国内が大混乱に陥る以前、中国仏教美術は西安を中心にその頂点に達し、彫刻や絵画作品は、完成した様式、形式を獲得した。またそれが統一様式、形式となり、各地で類似した像が多数造られ、北魏後期に始まった地域性がここにおいて解消された。もっとも華やかなこの時期の中国仏教美術史研究は、日本においても中国においても盛んで蓄積が多く、多くの問題がすでに解決されている」というのが、筆者の唐仏教美術に対する漠然とした印象であった。しかし、実際に自らこの時期の仏教美術研究をしてみると、果たして統一様式、形式なるものが、本当に存在するのか、そもそも何をもって統一様式、形式とするのかという問題が生じただけでなく、基本的でありながら定説のない重要な問題が、未だ少なからず存在していることに気づくようになった。そのひとつに時代区分の問題がある。(以上、本書「...
――「安史の乱」によって国内が大混乱に陥る以前、中国仏教美術は西安を中心にその頂点に達し、彫刻や絵画作品は、完成した様式、形式を獲得した。またそれが統一様式、形式となり、各地で類似した像が多数造られ、北魏後期に始まった地域性がここにおいて解消された。もっとも華やかなこの時期の中国仏教美術史研究は、日本においても中国においても盛んで蓄積が多く、多くの問題がすでに解決されている」というのが、筆者の唐仏教美術に対する漠然とした印象であった。しかし、実際に自らこの時期の仏教美術研究をしてみると、果たして統一様式、形式なるものが、本当に存在するのか、そもそも何をもって統一様式、形式とするのかという問題が生じただけでなく、基本的でありながら定説のない重要な問題が、未だ少なからず存在していることに気づくようになった。そのひとつに時代区分の問題がある。(以上、本書「序」より)
本書は、『雲岡石窟文様論』(2000年)、『中国仏教美術と漢民族化―北魏時代後期を中心として』(2004年)、『中国仏教造像の変容―南北朝後期および隋時代』(2013年)につづく、著者の第4冊目の研究書となる。
本書では、敦煌莫高窟、龍門石窟といった大規模な石窟はもちろんのこと、中国各地に点在する仏教美術をも視野に入れ、現存(または写真資料)する仏教美術作品を分析精査することにより、作品の整理、編年を行い、その結果を比較し総合することで、唐前期の仏教美術の様相を明らかにすることを目的とする。このことが、唐前期における初唐期と盛唐期武侠美術の性格の違いの理解に繋がり、時代区分にゆれる則天武后期の評価を可能にした。
さらに唐前期のどの時期に仏教美術表現が頂点に到達したか、またそれらの様式およびそれを具現するための形式が、仏の姿の真の表現として人々に受容され、全国規模の「統一様式、形式」として成立したかどうかなどの問題を明らかにする。
1961年横浜に生まれる。 1988年に国際基督教大学大学院比較文化研究科修士課程修了後、成城大学大学院文学研究科美学美術史専攻博士課程後期に入学。 1993年に単位取得退学。1985年から1年間、スイス国立ベルン大学哲学・歴史学部に留学、1988年から2年間、北京大学考古系に留学。 1998年博士(文学)取得。現在、筑波大学芸術系教授。