晉唐道敎の展開と三敎交渉
【序論「本書の目的と構成」より】(抜粋)
道敎史において、二世紀から八世紀に至る約六百年間は、經典・敎理・人物・造像などの各分野において大きな發展と統合が遂げられた時代であった。このような道敎の各方面における展開については、唐の玄宗(在位七一二~七五六)の先天元年(七一二年)に編纂された道敎の類書である『一切道經音義』玄宗の「序」および「妙門由起」に記錄が見える。こうした記錄から、魏晉南北朝隋唐期においては、道敎諸組織による大規模な統合化の現象、卽ち諸組織がそれぞれ個別に有していた經典・敎理などを徐々に共有のものとして統合しつつ、體系化していく活動が行われていたことが窺える。
この體系化活動の中では樣々な事柄が整理され、後世に大きな影響を及ぼした。例えば、「三洞四輔」という道敎經典の分類法も、この體系化活動の過程で成立したものであり、以後、明代に編纂...
【序論「本書の目的と構成」より】(抜粋)
道敎史において、二世紀から八世紀に至る約六百年間は、經典・敎理・人物・造像などの各分野において大きな發展と統合が遂げられた時代であった。このような道敎の各方面における展開については、唐の玄宗(在位七一二~七五六)の先天元年(七一二年)に編纂された道敎の類書である『一切道經音義』玄宗の「序」および「妙門由起」に記錄が見える。こうした記錄から、魏晉南北朝隋唐期においては、道敎諸組織による大規模な統合化の現象、卽ち諸組織がそれぞれ個別に有していた經典・敎理などを徐々に共有のものとして統合しつつ、體系化していく活動が行われていたことが窺える。
この體系化活動の中では樣々な事柄が整理され、後世に大きな影響を及ぼした。例えば、「三洞四輔」という道敎經典の分類法も、この體系化活動の過程で成立したものであり、以後、明代に編纂された道敎經典の集大成である『正統道藏』に至っても、この「三洞四輔」という分類法によって諸經典が分類されている。一方、道敎敎理の發展と共に、最高の信仰對象である至尊神は老君から天尊へと變化し、そして「三淸」と呼ばれる三柱の神靈によって構成される至尊神體系の信仰へと移行して定着した。現在、中國や臺灣各地の道觀には「三淸」と稱する殿宇がよく見られる。
一方で、前述したように、これまで、この時期の道敎については、經典の成立年代や敎理を究明する研究が多くなされて來た。このような經典に關連する研究は道敎研究の基礎であるが、それが盛んになされる一方で、當時の道敎が敎理や儀式を生み出すにあたって歴史・社會といかに關連したのかについての研究は、まだそれほど多くない。また、道敎の敎理を思想史上に位置づけて理解するには、道佛兩敎の交渉を視野に入れて考察する必要があるが、そのような研究もまだ多くない。(中略)
本書は、このような研究狀況を克服するために、三敎交渉の歴史において魏晉南北朝隋唐期の道敎が形成した過程を思想的な面に焦點を當てつつ、可能な限り當時の歴史的背景や、儒・道・佛三敎の交渉樣相(特に道佛兩敎を中心に)といった事柄を視野に入れて考察する。具體的には、東晉南北朝初期の道敎經典における「道」の理解と至尊神の形態と、重玄思想の成立をめぐる諸問題、ならびに佛敎の般若學の空思想が與えた道敎思想への影響、そして至尊神である「三淸」信仰體系の形成と、北朝期道敎の展開とその歴史的背景、佛敎の道敎に對する批判體系の形成及びそこに反映された佛敎による道敎敎理の理解、そして三敎交渉における儒道關係の樣相という多方面からの考察を通じて、魏晉南北朝隋唐期に起こった道敎の形成過程およびその思想の展開について分析し、その歴史的意義の更なる解明を目指す。